岩渕祐一 鎌倉日記
第十一回「ボール・ストライク」
季節の便りはうれしい。近況には触れてなくとも、日がな山を尋ね歩いた収穫と包んでくれた日報紙は伝えてくる。サッと湯がいて醤油味。酢味噌にあえても、また美味い。紅葉笠(モミジガサ)。
仙台ではシドケとも呼ぶ山菜は友人の郷里と早稲田の頃を呼び起こす。野球をやっていた友人とは講義を抜けだし、ミスターと呼ばれた名選手の引退試合にも出かけました。美術の澤柳先生、レポート大変苦しみました。今も蒸し暑い夜は「負けるが勝ちか」とさらに暑くなる野球の話し、ひとしきり。の、はずが海外野球には一瞬の間がはいるテレビ観戦。ボールからストライクへと投球結果を伝える字幕は、国際表記なのだとか。この字幕、僕にはすぐに和訳のスイッチがはいる。ストライクからボールへと。ちゃぶ台の頃から親しんできた訳だから、その違和感が部屋の中に居座っている。ボールからの表示はリスクを先にという発想だろう。言わばゲームのマネイジメント。ストライクからの表記はストライクを取った相手に敬意を先に示すという発想。これは美的センスなのだ。試合にも美学は大切と思う。
近頃、野趣の強いものは手に入りにくい。眼のさめるその味は、しかし数日もたつと薄れてくる。舌の慣れで大切な味を忘れる。よくあることだろう。
ツーストライク・スリーボール。次の一球、勝負。緊張がようやく濃くなってきた。まだまだ翻訳の夜は続く。
平成二十二年九月一日
次回第十二回「稲村ガ崎にて」
と予告すると江ノ電か海かと思うでしょう。
