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第四回「植木屋さんは」

 通りのあちらこちらから松の小枝の香りが漂ってくると植木屋さんの季節になったことがわかる。この小枝で遊べるのをご存知だろうか。「海はもどる」松葉を一本づつ根元でつなぎ、お互いに葉先を引き合う。葉が二つに割れてしまった方が負けという遊び。子供の頃はこんな単純な遊びを飽くこともなくしていた。それで心は満たされていた。いや、単純だからこそ満たされていたのだと思う。
 今は門松も植木屋さんもあまり見かけなくなってしまったが、昨年めずらしく隣家でその技を見ることが出来た。高い枝々に足をかけてはアッという間に小枝を払ってゆく。感心していると「木の流れに沿って枝を払ってやるんです」との話し。木の勢いなりに椎の木がこわされず、椎の美しさがそこにあった。
 自然にそった形、流れに一旦自分の意識を預け、その地点から技法を見出してゆく思索法は東洋に厚い歴史があるだろう。書、雅楽、木組細工、鼓も音になる前の音色を聴くのだとか。比類のない精密機器の操作などもこの延長線上にあるのだと僕は思う。「簡単なことですよ」と笑っていたが、どうしてどうして。美は得てして単純に見える。単純に見えて体得するのも、味わうのも難しい。一芸に秀でた者のみせる笑いが、そこにあった。
 さて、今日は僕も一枚描かなければ。単純に深く美しく、夢のように出来るだろうか。どうだろう。
平成二十ニ年ニ月一日
  扇ガ谷アトリエにて