岩渕祐一 鎌倉日記
第二回「狸と月見」
僕の散歩コースの途中には阿仏尼の墓(鎌倉時代)があり、稲荷社の小さな祠がある。かつてはタンポポがあちこちで咲く英勝寺の白土塀へと続くあぜ道だったが、今ではアスファルトの生活道であり、アングルが良いという事で横須賀線の撮影ポイントとして土日の別なくカメラマンでにぎわっている。
さて、この道が鎌倉の他の生活者のための道ともなるのは夕方以降なのだ。 ごくたまに夕方散歩に出る僕は、この稲荷社の前で小さな動物が困ったようにこちらをうかがっているのに気がついた。猫ではない。犬でもない。かなり親しみがわくズングリ。「ああ、子狸だ」と気がついたら、ポツポツ歩きだして稲荷社の前のゴミ置き場で止まった。
そう、僕のほうが子狸の生活圏に侵入してしまったことになる。
この稲荷社―阿仏尼の墓の前は仲秋の頃、扇ガ谷の山端からほぼ正面へとでる月を観ることができる。
やはり月は同じとも思う。月に照らされて姿を変える海の匂い、遠くのプラットホームのにぎわい。家々ですら常の様子ではないとも思う。僕も、やがて稲荷の奥へ消えていった子狸と一緒に、一刻「月に照らし出された住人」になれたのだろうか。
言葉をあまりに詰め込んでしまった僕は、この子狸のようには美しい月を観ていたのだろうか。どうだろう。あまり自信はない。
平成二十一年十二月五日
扇ガ谷アトリエにて
