岩渕祐一 鎌倉日記
第一回「海はもどる」
十一月の初め、庭の片隅に又、ツワブキの黄色い花が咲きはじめる。
と、突然に「海」はもどってくるのだ。
夏の観光客のにぎわい。海岸通沿いに散歩する家族や釣り人達、僕の頃は「修学旅行」と呼んでいた数名グル―プの中・高校生の嬉々とした姿が加わり、ほぼ毎日の由比ガ浜の、海の風景となっている。
釣り人をデッサンしてもいいし、沖にかすむ大島をぼんやりとながめていてもいい。
でも、このツワブキの花の黄色。庭の照り葉の、太い茎を持った黄色は、海岸の砂粒を、砂粒まじりの風を、風の中の強い磯の香りを呼び起こさないか。
そう、僕にとってはよく遊びに行った海の風が吹きぬける裏山の崖ぎわに咲いていたあの「黄色」なのだ。
僕はこのツワブキに呼び覚まされる「海」が好きだ。
心にフッと訪れてくるものが好きだ。
今は、季節がかなり不確かになってしまったが、人は皆この訪れてくるものがなつかしいから、飽くこともなく海ヘでかけ、山へでかけ写真を撮り、デッサンをし、或るいは日がな一日釣りをしているのに違いないのだと思っている。
平成二十一年十一月八日
扇ガ谷アトリエにて
